中島追跡日記

　何？!磯野の家の裏のお爺さん？!
俺は目を疑ったよ。
しかしそこに佇んでいたのは確かに｢裏のお爺さん｣だった。
(ってか今まで何回も出てきてるのに名前が無いというのはこれ如何に？)
それより当の花沢の様子がおかしい。
｢う……う…裏……裏のお…おじ…お爺さん…!!!｣
あの世界最凶最悪の生物兵器の花沢が怯えてるのか？!
何者なんだ!!あの裏のお爺さんは!!
しかしお爺さんは対照的に相変わらず余裕の物腰だ。
｢少し、度が過ぎてしまったようじゃのぅ…。お前さんをこれ以上この町で野放しにしとくわけにはいかないんじゃよ。｣
お爺さんは自慢の顎髭を撫でつつ言った。
｢ホッホッホッ。やれやれ…本気を出すのは何年振りかのぉ。｣
次の瞬間!!一瞬のうちにお爺さんが消えた!!
見えなかった!!
何処だ？お爺さんは？

いた!!!花沢の後ろだ!!!
｢ホッホッホッ。｣
｢!!!! 何!!!は、速い!!｣
不意を突かれた花沢はそれでもお爺さんに突きを繰り出した!

しかし、何とお爺さんは人差し指で花沢の拳をいなし、目にも止まらぬ速さで花沢の顎に掌底を叩き込んだ!!
｢ぐわぇぇぇぇぇぃっ!｣
お爺さんの一撃を喰らった花沢は空高く舞い上がった!
｢ホッホッ、何じゃ。手応えがないのぉ。おかしいのぉ。本屋の主人はこれぐらいではビクともせんかったのじゃが…｣
「裏のお爺さん、なかなかやるじゃない、グフフ・・・」
言った瞬間、花沢はアスファルトを真上に放り投げた！！
お爺さんは自慢の顎髭を撫でつつ言った。
俺は目を疑ったよ。
次の瞬間!!一瞬のうちにお爺さんが消えた!!
｢う……う…裏……裏のお…おじ…お爺さん…!!!｣
ま、まさか、またアレをやるのか！！し、信じられねぇ。
どこだ？どこ行った？
あの悪魔の性でどれ程の人間が不幸になった事かまたどれ程の悲劇が撒き散らかされたことか。
花沢は膝をかがめたかと思うと、次の瞬間には10mほど上空にいた。まさか...
だって死なないんだもん。おまけに地面もへこんでいる！！
流されてしまう。「くっ・・・！！ならば！！」
骨を折るとか、間接を外すなどと生易しいもんじゃない。

がっ！！その瞬間！！
花沢の腕が増えた。
いや生えたといった方が正しいのかもしれない。
とにかく腕が４本あるのだ。
ダイオキシンの影響で腕が４本あるイモリを俺は見たことがある。
花沢は４本の腕と２本の足でお爺さんを羽交い絞めにしアスファルトに突っ込む！！
裏のお爺さんの体は地面に叩きつけられ木端微塵に吹き飛んでいった。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
狂喜の笑みを浮かべている花沢。
もうフネしかいない。ヤツを斃せるのはフネしかいないのだ。
そして戦いの成り行きを見ていたフネがついに動いた。

シュンシュッシュッ

まるでナニをシゴくかのような音しか聞こえてこない。
速過ぎる。とてもじゃないが目で追い切れるもんじゃない。
・・・・・・・俺は最後の切札フネに人類の未来を託した。

１時間後。

花沢が叫んだ。
「私の愛は世界一ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
黒焦げになっている花沢の足元にある塊を見て俺は絶句した。
あれはフネだ！！もはや原型を留めていないが辛うじてわかる。
死にたい。本気でそう思った。
「！？」
何故か上空から女の声が聞こえる。天からお迎えでも来たのだろうか？
いや聞き慣れた声だ。誰だ？たしかこの声は・・・かおりちゃんだ！！
「ごきげんよう、花沢さん♪わたしの毛を消してくれたお礼に今度はあなたを消してあげるわ！！」
花沢とフネの戦闘に集中していて気づかなかった。
なんと上空に何万機もの戦闘機が飛行しているのだ！！
かおりちゃんとこの親父さんが政界のお偉いさんだとは知っていたが・・・。
流石の花沢もこれを見て呆然としている。
「さようなら、花沢さん♪」
何万発ものミサイルが一斉に放たれ花沢に降りかかる！！
そ、そんなことはどうでもいい。俺はどうなるんだ！？
ここで死ぬのか？考えてる場合じゃない逃るんだ！
しかし俺の体が言うことをきかない、動かない。
あきらめた。どうせ死ぬなら花沢の最期を見て死のう。
花沢はどんな顔してるのだろうか。振り返ってみ・・・・・・
　振り返ってみると花沢はいなかった。
もはや花沢でもなく人間ですらない。
花沢の体は膨張して膨れ上がり腕が何百本と生え、
俺とカツオに覆いかぶさるような格好になっている。
そして信じられない言葉が微かに聞こえた。

「せめてカツオくんに"好き"って言ってほしかったな・・・」

凄まじい爆発音と共に花沢は消滅した。

今、俺は病院のベッドの上にいる。
奇跡的に左足を失っただけで助かった。
カツオも脳に後遺症が残ったが生きていて無菌室にいるそうだ。
当然、町は壊滅。生存者は俺とカツオの２人だけなんだとさ。
花沢・・・・。花沢のことは思い出すだけで吐き気がしてくる。
もう花沢のことは忘れてまっとうに生きようと思う。